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「久しぶり。元気だったか?」
とん、と地面を軽やかに蹴って、チェスターコート姿の穂高が近付いてくる。目の前に来ると、そのやわらかな笑顔をわずかに見上げる格好になった。
「どうした? ぼうっとして。ひょっとして車酔いでもしたとか」
「……あんた、また背が伸びた?」
心配そうに顔を覗き込んでくる穂高の変化に、ややとまどいながら訊ねると、一瞬、ぽかんとした空白があった。
「え、……ああ、どうだろう。あれから、特に身体測定とかしてないからよく分からないけど」
自覚がなかったのか、どこかとぼけた返答をして穂高が首を捻る。数か月前、並ぶと少しだけうえにあった彼の肩口は今、ちょうど真紘の目の高さにあった。
「真紘?」
「……何でもない」
ずるい、と出かけた文句はかろうじて唇のなかで押しとどめて、改めて彼に視線を戻す。真紘の真意を掴みかねているのか、気づかわしげに眉を寄せている様子を見つめていると、自然と笑みがこぼれた。
「……なに、どうかした?」
「……いや、ごめん。何か、懐かしいなと思ってさ。あんたの困った顔」
いつもそんな表情してたもんな、と茶化すと、そんなことないだろ、とすかさず穂高が反論してくる。
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