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ともみとは一年半ぶりに会う。お互いにすぐわかるかな、と話していた前日の心配をよそに、待ち合わせ場所の駅前に着くなりすぐに彼女を見つけた。向こうもこちらに気が付き、軽く片手を上げる。
「久しぶり。全然変わってなくて安心した。」
「ともみは今染めてるんだね。すぐわかったけど。」
最後に会った時は就活中だったから二人とも黒髪だったが、今のともみは明るい茶髪になっている。肌が白いのであまり違和感はない。一方私は染めたいと思ってはいるものの決心がつかず黒いままだ。
9月に入っても猛暑日は途切れることを知らずうんざりしていた時、ふと思い出して私から連絡を取った。今日はともみが気になっているというかき氷屋へ行く予定だ。駅から歩いていける距離にあるらしい。
「そのお店のかき氷がおしゃれで評判なの。いわゆるフォトジェニックな感じで。」
「なるほどね。」
「そういうのもあって結構行列になるみたい。」
ふうん、と相槌を打ちながらスマートフォンを取り出してその店のホームページを検索する。アクセスしてかき氷屋というものがあること自体が新鮮な私にとっては、メニューの豊富さにまず驚いた。シロップのイメージなど、地元の夏祭りの屋台で出ているような鮮やかな原色のものしか思い浮かばない。だがこのかき氷屋はきちんと果物のジャムや果汁を使用しており、その他様々なトッピングもあるようだ。
駅の外は都内とは思えない、昔懐かしい趣を残す下町が広がる。隅から隅まできちんと折りたたまれたような整頓されたビジネス街とは違い、建物は低くでこぼこで路地は入り組んでいる。距離はわからないが、遠くの方に朱色の鳥居がちらりと見えた。ともみのスマートフォンに従い、無数に分かれる内の一本の路地に入る。足元からはアスファルトの照り返しを受け、頭上からは昼下がりの日差しと蝉時雨が同時に降り注ぐ。日陰を選んで歩きながら曲がり角にぶつかるたび、ともみは地図を確認し進んでいく。
大分歩いただろうか。日差しの下を歩き続けていると時間の感覚があいまいになる。
「あれ。」
半歩前を歩いていたともみが急に立ち止まった。ともみの視線を追うと、その先は行き止まりになっていた。またか。私は胸中で何度目かのため息をついた。
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