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『兄さんは強いね。ほんとに頑張ってる。俺は苦労知らずで、何不自由なくて。兄さんの方がよっぽど頭よかったのに、俺だけ大学行かせてもらうのも、ほんとはすごく悪い気がして……、父さんたちもすごく残念がってた。もっと甘えてくれればって、いつも言ってたんだよ』  胃の底がムカムカした。強いんじゃない。独りで立たざるを得なかっただけだ。  大事に大事に守られて、汚いことも知らずに育ったいい子が、これ以上綺麗ごとを並べるのが我慢ならなかった。 「お前は優しいな。でも残酷だ。俺はお前のそういう無神経な優しさが大っ嫌いだったよ」  ふと音が途切れて、ショックで蒼ざめた誠の顔が見えるようだった。  判っている。これは八つ当たりだ。これ以上言うべきではない。そう思うのに、限界まで昂ってしまった激情は、もはや止める手立てがなかった。 「俺はいつも疎まれて、お前と比較されて、最後には捨てられる。俺が慕っていた人たちにもお前はニコニコ近づいていって、結局は俺から奪っていく。そんなことの繰り返しだったよ。だから俺はお前から離れたかったんだ」 『――そんな、……』  誠の悲痛な声が、耳を打つ。
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