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「……髪、伸びたな。でもそれ以外はあまりに変わってないんでちょっと驚いた」 「あの、」 「芳崎(よしざき)だ。芳崎英嗣(えいじ)。君は、原田(はらだ)佳人君だろ」 「俺を、憶えていたんですか」 「まあね、四年ぶりに会って、フルネームを言えるくらいには気にしてたよ」  驚いてその目を見つめると、芳崎はどこか痛ましげな目で佳人を見つめ返した。 「君はいつも寂しそうで、放課後になると制服姿のままあの図書館へ来て、遅くまで独りで映画を観てた。多分、家に帰りたくない事情があるんだろう。そう思ってた。でもある日ぱったりと来なくなって、心配してたんだ」  佳人はひたすら驚いて、それから小さく俯いた。自分をそんな風に見ている人がいたなんて全然知らなかった。  あの頃は今よりももっと余裕がなくて、人との関わりを極力避けていたから、きっと人の目もまともに見ていなかったのだろう。そうでなければこんな風に優しく笑う男の顔を忘れるはずがなかった。 「……あのあと、事情があって養父母と離縁したので、今は蓮見(はすみ)なんです。蓮見佳人」  俯きながら、そんなことを言う自分に驚いていた。まともに話したのが初めての人に、ましてや今後も会うこともないだろう相手にそんなことまで言う必要などなかった。 「そう、か。色々あったんだな」  唐突な佳人の告白にも迷惑がる様子もなく、芳崎は労わるような声で短く告げた。
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