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「あの、じゃ…、俺が作ります。あんまり上手くはないかもしれないけど、今日のお礼に」
本当に自分が言ったのだろうかと疑うほど大胆すぎる申し出に、佳人は軽く眩暈を起こした。
こんなことを言って大丈夫だろうか。めんどくさいと思われないだろうか。今日のことだけでも大概辛抱強くつきあってくれたと思うのに。そもそも店へ行くというのも単なる社交辞令だったかもしれないじゃないか。
だが怖々と見上げた先にあったのは、思いがけず嬉しそうに微笑む芳崎の顔だった。
「それは楽しみだ。今度の日曜なら時間取れると思うけど」
佳人は心底ほっとして、小さく頷いた。
「俺も、日曜は定休日なので」
それから連絡先を交換してその晩は別れた。
去り際に、風邪、引くなよ、と言って、ぽん、と肩に置かれた大きな手の感触が波紋のように全身に拡がり、揺り返す波のように佳人の心臓に戻って、静かにざわめかせた。
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