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「分かりました」  善三は短く応えて次の料理に取り掛かっている。  後れ毛を直しながら善三をそっと見つめると、倭文江は背筋の伸びた美しい後ろ姿を見せて板場を離れた。  いつもはそんな些細な視線にも気付かないのに、今日に限って女将の目に潜む切なげな色を見つけてしまい、微かに戸惑う。 「佳人、炭はどうだ」 「大丈夫です」 「勇次(ゆうじ)、焼きにかかれ」 「はい」  二番板前の勇次が素早い身のこなしで焼き物に取り掛かる。善三と同様、寡黙な男だったが、佳人以上に善三を崇拝しているのが判る。  仕事熱心で、常に注意深く善三の言葉を聞き、それを黙々と実践する姿は佳人にとっても刺激になる。  どこか浮ついていた気持ちを引き締め、佳人は目の前の料理に専念することにした。
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