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しばらく膝を抱えて空を見ていたが、急にパタパタッと音がして雨が降りだした。慌てふためく人々の声と駆け出す足音が次第に遠ざかり、文字通り祭りの後の白々とした空間だけがそこに残された。
惨め、という言葉をそのとき知っていたかどうかは判らない。けれどその場所で、雨傘を持って駆け付ける叔父をこれ以上おとなしく待っていることが耐えがたくなり、佳人は痛む右足首を庇いながら立ち上がった。
キツネの面をつけたまま、佳人は舗装の悪い家までの道を、足を引きずりながらゆっくりと歩いた。唇を噛みしめ、雨に煙る道の先を、まっすぐ睨むように見つめながら。
『あそこはずっとお子さんが出来なかったから、まさか引き取ってすぐに本当の子供が出来るなんて思わなかったんでしょ。大変よねぇ、奥さんも身体弱いし一人でも大変なのに』
『でもいまさら離縁て訳にはいかないもの。きっと後悔してらっしゃるんじゃないかしら』
数日前に聞いた近所の主婦たちの、あまりにも無責任で、無分別な噂話が、まだ小学三年生だった佳人の世界を一変させた。
能天気に叔父たちを慕い、当然のような顔でご飯を食べ、学校へ行かせてもらっていた自分の厚かましさが滑稽で、そんなことに気付きもしなかった自分の浅はかさを死ぬほど恥じた。
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