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それからほどなくして叔父が帰ってきた。
「佳人」
叔父は暗がりにはっきりと響く声で佳人を呼んだが、今度も無視した。短い嘆息のあと、襖は再び閉じられた。
何故強引にでも入って来ないのだろう。それがなさぬ仲の子への遠慮を表しているようで佳人の心はまた硬化した。
頑なに拒絶しながらも放っておかれたらおかれたで不安になる。不安定すぎる心の動きについていけず、佳人は疲れ切って浅い眠りに落ちた。
夜中に起きるとパジャマを着せられていた。足にも湿布と包帯が巻かれていて、叔父たちへの罪悪感で胸が苦しくなった。
やっぱりどう考えても自分が悪い。眠って少し落ち着いた佳人は、彼らに謝るためにそっと部屋を出た。
きっと彼らはいつも通り優しく笑ってなんでもないことのように受け流してくれる。そしてまたあの明るくて優しい日常へと、佳人を招き入れてくれるだろう。
だが居間の戸に手をかけた佳人の耳に飛び込んで来たのは、叔父と叔母の沈鬱な話し声だった。
「いまさらそんなこと言っても仕方ないだろう。お前だって賛成してくれたはずだ」
「あの子が嫌いっていうんじゃないのよ、ほんとに可愛いと思ってるし、ずっと家族でいたい。けど、……自信がないの。ちゃんとあの子たちを分け隔てなく出来ているのか、これからもそう出来るのか、ヨシくんはきっとこの先、凄くそういうのに敏感になると思うの。……今日も、本当は怖かった。あの子、すごく無表情で、知らない子みたいで、急に、……怖くなったのよ」
微かに取り乱したような叔母の言葉が辛くて、佳人はそっとその場を離れた。
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