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 言葉もないままに深く唇を重ね合わせる。相変わらずその瞬間は仔犬のように身を震わせる佳人だったが、少しずつ芳崎の侵食を許してくれているようだった。  佳人が慣れるまでと思い、まだ最後までは抱いていない。だがそろそろ芳崎も限界だった。日ごとに佳人を奪いたい気持ちが募ってゆく。そう思って余裕のない目を向けると、佳人はかすかに怯えたような目をした。 (参ったな)  芳崎は苦く笑い、こみ上げる衝動を抑えながら胸深くに抱きしめる。  佳人の気持ちは多分もう、自分へと傾いている。けれど弟の代わりだと言って自分から始めたこの関係を、彼が後ろめたく感じていることも判っていた。  芳崎からもう一歩踏み込めば、二人の関係は変わるのかもしれない。そう思うのに、常ならず臆している自分がいる。  熱を分け合うこの行為を佳人が躊躇いながらも受け入れているのは、単に人肌を知った心地よさからかもしれない。孤独な彼が誰かのぬくもりを欲するのは至極当然なことだ。それがたまたま傍にいた自分であっただけだとも考えられる。  だから芳崎も自分の本心を告げることが出来ずにいた。強引に事を進めて逃げられたりでもしたら悔やんでも悔やみきれない。  大切すぎて本気で手を出せないなんて初めてのことだった。  手と唇で佳人を存分に愛したあと、芳崎はくたりと身を預ける佳人を腕に抱きながら、まだ少し湿った甘い香りのする髪をゆっくりと梳いていた。  佳人は何も言わなかったが、そうされるのが殊更に気に入っているようで、うっとりしたように目を閉じている。
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