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「お先に失礼します」  残った職員たちに挨拶する女性教員の声が聞こえて、ふと顔をあげると、職員室の窓の外はすでに薄闇が降り始めていた。  強張る肩をほぐし、外の空気を吸いに出ると、頬を撫でる風は冬の気配を孕んでいた。夕焼けの名残を残す遠い空を見つめながら芳崎は小さく息をつく。  グラウンドの方からは、この時間になっても部活動に励む生徒達の声が聞こえていた。  自分が在籍していた頃とほとんど変わらない光景だ。  そして佳人もここで三年間を過ごしたのだと思うと、ひどく感慨深い。  教室棟と職員棟をつなぐ渡り廊下をやって来たのは先輩教師の加藤(かとう)だった。芳崎よりも三つほど年長の、物腰の柔らかい男だ。 「お疲れさまです。期末の準備ですか」 「はい。加藤先生は生徒会ですか」 「ええ、会誌の編集に手間取ってしまって」  そのまま加藤も立ち止まって、グラウンドの方に目を遣る。  「今、芳崎先生を見ていて思い出したのですが、同じようにここでいつも外を見ていた生徒がいましてね。聡明でしたが複雑な家庭にいたせいで、色んなことを諦めてしまったような生徒でした」 「……もしかして、原田佳人、ですか」  加藤は目を丸くして小さく息を呑む。 「原田を、ご存知なんですか」 「ええ、最近知り合いまして」 「そうですか……」  加藤が佳人の担任だったことは知っていた。佳人がどんな生徒だったのか、訊いてみたいとは思っていたが、切り出すタイミングを見つけられず今日まで来ていた。
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