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 決して芯から冷めている訳じゃない。  そうだ、自分はそのことをよく知っている。あの寂しげな眼差しが、誰よりも温もりと絆を欲しているということを。  自分がその時ここにいたら、決して独りにはしなかったのに、と芳崎は強く思った。  同時にそんな彼がいま、自分のテリトリーに芳崎の侵入を許している事が、どれほど貴重で意味のあることなのかに改めて気づく。 (俺だけは絶対に離れない。独りにはさせない)  そう想いを新たにする。だが多分それだけではダメなのだ。佳人自身が欲しがらないと、本当の意味では救われない。  だから自分はそれを待つ。  焦らず、しっかりと傍にいるのだ。  約束の水曜日。思いがけず仕事が長引いてしまい、芳崎は佳人のアパートの前にタクシーで乗りつけると、釣り銭も受け取らずに車から飛び降りた。  連絡は入れたのだが二時間の遅刻じゃ機嫌を損ねられても仕方がない。何しろ今日のことは芳崎からお願いしたことなのだ。佳人はきっと仕事をあがってから無理をして準備をしてくれたに違いない。  逸る気持ちで二階への階段を駆け上る。時刻は午後九時少し前。呼び鈴を鳴らすが返答がない。ドアノブに手をかけると鍵はかかっておらず、芳崎は静かに玄関へと身を滑らせた。
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