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 その週の日曜日。芳崎は誕生日に遅くまで待たせたお詫びとして、佳人を映画に誘った。主にミニシアター系の名画をかける映画館でサスペンスとロードムービーの二本立てを観てから近くのカフェに入り、映画について語り合った。  普段あまり口数の多くない佳人も好きな映画のこととなると、饒舌になる。芳崎の反応を確かめながら自論を展開する佳人のはにかんだ顔が可愛くて、芳崎は丁寧に相槌を打ちながら心の中ではヤニ下がっていた。 「あれ、芳崎か?」  ふいに背後から声をかけられて振り向くと、パッと目を引く派手な顔立ちの男が、笑みを浮かべながらやってくるのが見えた。  キャメルのロングコートに、ブラウンのパンツ、赤いニットマフラーという目にも鮮やかなコーディネートを嫌味なく着こなしている。  「伊達男」という言葉が、これほど似合う男もいない。マズイ相手に会ったと芳崎は軽く顔をしかめた。 「なになに、デート? 可愛い子連れてるね」  男が佳人の顔を覗き込むようにして笑った。 「よせ、この子はそういうんじゃない」  牽制の意味を込めて言ったのだが、佳人が小さく息を呑んだ気がした。誤解させた気がして慌てて言葉を繋ごうとするうちに、彼は強引に二人の間に割り込んだ。 「こんちは、俺、廣瀬(ひろせ)(しゅう)っていうの。芳崎君の大学時代からのお友達」 「気持ち悪い言い方すんな」 「えー、じゃあなんて言うの。元カレ?」 「ふざっ、お前! 佳人が誤解するだろ!」  芳崎が廣瀬の頭をはたく。そんな芳崎を驚いたように佳人は見つめた。
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