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「お前がからかっていいような子じゃないんだよ」  ごめんな、冗談だから、と打って変わって優しい声で佳人に言う。すると佳人はなんだか居たたまれない様子で俯いてしまった。 「きみは? 名前なんて言うの」 「あ、俺は、」  佳人がすがるように芳崎を見た。 「彼は蓮見佳人君。俺の高校の後輩だ」 「へえ、大学生?」 「社会人だ。有名料亭の板前さんだよ」 「へえ、そりゃ凄いな。どこのお店? 今度接待に使わせて貰おうかな。あ、俺ね、商社の営業やってんの」  そう言って強引に佳人に名刺を渡す。芳崎は溜め息をつきながら、仕方なく佳人の働く料亭の名前を教えてやった。だがそれ以上の情報はやらないと強引に話題を変える。  廣瀬と佳人を接触させたくなくて、自然と話は廣瀬と共通のものになり、佳人のことが気になったが、話の巧い廣瀬に乗せられて喋っているうちに、佳人が静かに席を立った。 「あの、俺、先に帰るから」 「待てよ、俺も行く」 「いいから、…久しぶりに会ったんでしょ。俺も明日早いから、帰って休む。今日はありがとう」  佳人は廣瀬にも小さく頭を下げると紙幣を一枚テーブルに置いて店を出て行った。 「あー、行っちゃった。誤解したんじゃないの? お前がちゃんと紹介しないから邪魔だと思ったんだろ」 「邪魔なのはお前だ。手出すなよ」 「ふうん? 必死だね。珍しいことで」  芳崎は腹立ち紛れに廣瀬から煙草を一本奪って火をつけた。
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