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子供部屋に帰り、一つだけ敷かれた自分の蒲団を見つめた。いつもはここに誠も一緒に眠っている。
多分佳人の状態を気にかけて、誠を自分たちの部屋に引き入れたのだろう。自分には決して入ることのできない「家族」の空間へと。
そっと窓のカーテンを開けると、雨はすっかりあがったらしく、月がおぼろげな光を放っていた。
今にも消えそうな弱々しい光は、夜明けとともにひっそりと、誰にも顧みられることなく消えてゆくのだろう。佳人はその姿に自分を重ね、少しだけ泣いた。
* * *
「繰り返しお伝え致します。ただいま雨量計の水位が規定値を超えたため、全線で運転を見合わせております。運転再開まで少なくともあと一時間ほどかかると思われ―」
構内に響くアナウンスが、フッと佳人の感覚を呼び戻した。緩慢な動きで顔をあげると、改札口の窓ガラスには、相変わらず雨の礫が激しく叩きつけられている。
階下のホームから冷たい風が吹き上げてきて、佳人は思わずぶるりと身を震わせた。濡れたままの服が余計に体温を奪ってゆく。呼吸がかすかに不安定になりヤバイな…、と身体を丸めた。
季節の変わり目には「発作」を起こしやすくなる。最近は落ち着いていたのだが、昨夜、幼い頃の夢を見たせいか、朝から気分が不安定だった。
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