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「サンキュ」  わざとなのか佳人の手首まで掴まれて、ドキンとする。そのままボトルを傾けて飲むから少し零れて芳崎のジャケットの袖が濡れてしまった。 「もう、なにやって…」  佳人は急いでカバンからハンカチを出して、袖口をそっと拭ってやる。すると芳崎が好ましげな目で佳人を見て優しく笑った。 「な、なに、」 「いや、…可愛いな、と」  ボッと顔が熱くなって、佳人はボトルを芳崎に押し付けると反対の窓に顔を背けた。  ハハ、と笑う芳崎の声が憎たらしいのに、胸がドキドキして、急に室内の酸素が減ったみたいだ。佳人は小さく窓を開けてひんやりとした空気をこっそりと吸い込んだ。  鎌倉市内に入るとさすがに緑が増えて空気も変わったように感じる。いわゆる観光地と呼ばれる鎌倉大仏や鶴岡八幡宮、円覚寺の紅葉などを見て回り、佳人は時々芳崎の楽しげな横顔を盗み見ながら幸せな時間を噛み締めた。  だが冬の陽は落ちるのが早く、楽しい時間はあっという間に過ぎて、名残惜しい気持ちのまま、再び横浜方面へと向けて走り出した。 「疲れたか」 「ううん。楽しかった」  素直に言うと、芳崎も満足そうに笑った。  しばらく心地よい余韻に満たされながら穏やかな振動に身を任せていると、信号待ちで止まった先から何やら賑やかな気配が伝わってきて目を遣った。 「なんだ? 神社か?」  芳崎もチラとそちらに目を遣り興味を示す。交差点から少し左に折れた所に広々とした敷地があり、その塀を囲むように目にも眩いイチョウの木々が揺れている。 「祭りでもやってるのかな。行ってみるか」  芳崎が言うと、佳人も頷いた。
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