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 輸入物らしい洋食器を置く店で、佳人は対のカップを見つけ、しゃがんで見つめた。これを自分のアパートに置いたら、芳崎は使ってくれるだろうか。そう思って顔をあげると、いつのまにか芳崎の姿が見えなくなっていて慌てて立ち上がった。  きょろきょろと辺りを見回すと人ごみに紛れ、芳崎の広い背中がどんどん遠ざかってゆくのが見えた。ふいに悲しい記憶が蘇る。あの夜祭の日の心細さが胸にこみ上げてきて佳人は息を呑んだ。  もしも、芳崎を失ってしまったら――。  そんな想像に胸を衝かれて、足が竦んで動けなくなる。  すると佳人がいないことに気付いたのか、芳崎が振り返り、泣きそうな顔で立ち尽くす佳人を見て目を瞠った。それからすぐに微笑んで、まっすぐに佳人に向かって手を伸ばしてくれる。俺のもとへ来い、と。  その瞬間、佳人の心臓は甘く、切なく痺れ、蜜に誘われるミツバチのように、フラフラと芳崎のもとへと吸い寄せられてしまう。  そばまで来て頼りない顔で見上げる佳人を見て、芳崎は一瞬苦しげに目をすがめた。そしてそのまま無言で佳人の腕を掴むと、何故か神社の境内の裏手へと連れてゆく。  フリーマーケットの賑わいから遠く離れ、奥まった場所まで来ると、芳崎はいきなり強い腕で佳人を抱き締め、性急に唇を奪った。 「あ……んぅッ」  ぐいと腰を引き寄せられ密着した身体が急速に熱を帯びる。ぴちゃぴちゃと淫らな音を立てて、ぬめる舌で、唇で、深く互いを貪り合う。  頭がぼうっとして、いつも芳崎に愛される場所すべてが狂おしく疼き出し、切なくて、堪らなくなって、歓喜ともどかしさの涙が零れ落ちた。
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