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 勤務先にはいつも原付バイクで通っているのだが、今日は午後から台風の影響が出ると知り、久しぶりに電車を使った。  だが運悪く台風の上陸が帰宅時間に重なってしまったようだ。ほんの数駅であれば持つだろうと判断したのが誤りだった。自宅の最寄り駅まであと数駅というところになって電車が止まってしまったのだ。  横浜駅から佳人の家の最寄り駅までを繋ぐのはこの鉄道だけで、それが止まってしまうと行くことも戻ることも出来なくなってしまう。  天候が良ければ多少時間がかかっても徒歩やバスでの帰宅を考えるが、この暴風雨ではどうにもならない。ひたすら運転再開を待つしかなかった。  改札口には他にも佳人と同じ憂き目にあった人々がしゃがみこんだり、携帯をいじったり、中には弁当を広げて食べている者までいて、この不可抗力に様々な形で耐えているようだった。  微かに乱れ始めた呼吸に顔を歪めながら虚ろな目で構内を眺めていると、ふと強い視線を感じてそちらへ目を向けた。  佳人がうずくまるエレベーター脇の空間から五メートルほど離れた階段の縁に背をもたせかけて立っている男と目が合う。  トレンチコート姿で腕を組んで立つ男は背が高く、精悍な顔立ちをしていた。少し不躾なくらいまっすぐに佳人を見るその顔に、微かな既視感を覚える。  だがそう思ったそばから胸が苦しくなり、ヒュウッと自分の喉がおかしな音を立てて鳴った。指先が痺れ、呼吸がうまく出来ない。
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