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「あの、」 「ああ、俺ね、ゲイなの。あいつは大学の同期だったんだけど、二年くらい前にその手の店で偶然再会してさ。あ、でもいかがわしい店じゃないよ。上品におとなしく飲むだけの店だから心配しないで」  佳人は小さく俯いて廣瀬から目を逸らした。何に動揺しているのか自分でも見極められなかったけれど、ただひとつはっきり分かったのは、芳崎にも佳人の知らない面がたくさんある、ということだ。大人の男としての。 「気になる? 相手の子のこと」 「別に」 「君より少し年下かな。細身で顔が小さくて優しそうな顔立ちの子だったよ。二人ともなんだか深刻そうな様子だったから声かけなかったんだけど」  ありふれた特徴なのに、芳崎と一緒にいたという少年の顔に、誠のそれを重ねてしまう。 「そうですか。でも、…俺には関係ないことなので」  力なく言い捨てて背を向ける。 「じゃさ、」  廣瀬が後ろ手を掴んで佳人を振り向かせた。 「俺とつきあわない? 男はダメ?」  ぐっと腰を引き寄せられてカッとなる。 「ふ、ざけないでください」 「ふざけてない。真剣だよ。そういう目をする子って放っておけない」 「やめ、」  廣瀬の腕の中でもがく佳人の両手首を掴んで廣瀬は耳元で告げた。 「愛されたいんだろ、誰よりも。俺なら君だけを見るよ。他に目はやらない」  ハッとして廣瀬を間近に見つめる。意外にもそこにはからかいや意地の悪さの色は見えず、佳人は小さく息を呑む。
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