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「どうした」
「うん……、あのさ、兄さん」
「ん?」
誠は何かひどく緊張した様子で目を揺らし、それから思い切ったように口を開いた。
「俺、好きなひとが出来た」
「え」
「進路のこととか、たまたま相談に乗ってもらう機会があって、それで色々話を聞いてもらってるうちに、……好きになってた」
「……そう、か」
何故急に誠がそんな話をし始めたのかが判らなくて、佳人は探るように誠を見つめる。
「でも、その人は、……男のひとで、……俺、そういうの初めてで、どうしたらいいのか判らなくなって」
なにか嫌な感じが胃の底からせり上がるのを感じて佳人は息を呑んだ。
「男、なのか」
硬い佳人の声に、誠は俯いて頷く。
「……兄さんも、よく知ってるひとだよ」
衝撃が全身を駆け抜け、みぞおちの辺りがぎゅっと引き絞られる。まさか、……でも、自分と誠の共通の知り合いなんて、芳崎くらいしかいない。
佳人が言葉を継げずにいるのを、誠の好きな相手が男性であることへの戸惑いのせいだと考えたらしく、誠は泣きそうに歪んだ顔で佳人を見た。
「気持ち悪い、よね、こんなの」
「……相手は、知ってるのか」
誠はゆるゆると首を横に振る。
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