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「疲れてるのか」  ふいに低い声に問いかけられて、佳人はハッと顔をあげた。かすかに眉を寄せた芳崎が探るように佳人を見つめている。 「あ、ごめん、なさい」  握っていたフォークと皿がカチリとぶつかって、佳人の動揺を知らせる。昨夜のメールに返信した際、芳崎に誘われて、久しぶりにいつか来たレストランで食事をしていた。  だが前回とは違って少しも味が判らない。誠の言葉を思い出すと顔が強張って、まともに芳崎の目を見ることも出来なかった。 「別に謝ることないだろ。無理に誘ったのは俺なんだし」  小さく溜め息をついて芳崎が苦笑する様子が伝わった。  優しい芳崎。思えば人見知りの激しい佳人が彼といて窮屈な思いをすることは一度もなかった。甘苦しい痺れに心を震わせることはあったとしても。  それは全てさりげない芳崎のフォローのおかげだった。こんなにめんどくさい自分に呆れるほど根気よくつきあい、温かい笑顔さえ向けてくれる。きっとこの先こんなひとに出逢うことはないだろう。  佳人にとって芳崎は唯一のひとだけれど、芳崎にとっては多分そうじゃない。芳崎は誰とでもきっとうまくやれる。芳崎と誠は両想いになれるのだ。誠が芳崎に想いを伝えさえすれば。  そう思うだけで辛くて、悲しくて、冷たくなった指先を無意識に握り込む。 「芳崎さん」  ひどく声が掠れた。誠と会っているのかと訊こうとして、けれどどうしても言葉が出てこなくて、結局そのまま俯いてしまう。
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