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 久しぶりのそれにうまく対応できず、佳人はぎゅっと目を瞑った。苦しくて酸素を取り込もうとするのだが、呼吸をするたびにどんどん苦しくなってゆく。こういう時の対処法はよく判っているつもりだったが、パニックに陥ってしまうとそれが思い出せなくなってしまう。  床に両手をついてひざまずく佳人の前に慌ただしく駆け寄る人の気配があり、いきなりバサリと何かが頭から掛けられた。  ハッとして顔を上げると驚くほど近くに厳しい顔で佳人を見る男の顔があった。先ほど佳人を見ていた男だと判ったが何を言うことも出来ずにひたすら苦しみと闘う。  男は片膝をつき、佳人を周りの人間から遮断するように掛けられたコートの中で、佳人の肩をそっと掴んだ。 「ゆっくり息を吐いて。少しずつだ。そう…、そのまま吐き続けて」  低く落ち着いた男の声に佳人はすがった。言われるまま必死に呼吸をコントロールする。  男は佳人の胸と背中を挟むように大きな手で支えながら、静かに呼吸のリズムを指示してくれる。しばらくその通りに呼吸を繰り返すと、次第に落ち着き始めるのが判った。 「よし、いいな、落ち着いてきた」 「すみ…ませ、」 「まだ喋るな。ちょっと待ってろよ」  男はコートを佳人の肩にかけ直すと足早に離れて行った。  大丈夫ですか、とそばにいた若い女性が声をかけてくれる。佳人は小さく頷くと膝を抱えるように顔を伏せて、怖々と呼吸を繰り返した。
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