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 翌日の土曜日、寝不足のまま出勤した佳人は、年の瀬の忙しさに余計なことを考える暇もなく懸命に身体を動かした。そのおかげで少し気持ちがすっきりとし、仕事をあがると昨夜から電源を切ったままだった携帯を思い切って再起動した。  メールが一件。誠からだった。 『今までごめん。俺、きっと気付かないまま兄さんの嫌なことばっかりしてたんだね。無神経だって言われた意味が解った気がする。兄さんがどんな気持ちで家を出たのかも知らないで、つきまとって、兄さんの優しさに甘えてた。本当にごめん。自分勝手でごめん』  誠らしいメールだった。けれどもう、昨夜のような苛立ちは感じなかった。むき出しの言葉を投げつけたことで何かがプツリと切れてしまったような気分だった。  見上げれば冬の夜空に冴え冴えとした下弦の月が浮かんでいる。夜風がキンと首筋に突き刺さり、佳人はジャケットの前をしっかりと閉めると、店の裏の駐輪場へ向かった。エンジンを少し温めてから暗い夜道を走り出す。  芳崎からのメールがなかったことに、自分勝手な落胆を覚えていた。  もう、終わりなのだろうか。このまま佳人が逃げ続けていたら、きっと芳崎は諦めて去っていくだろう。  それは胸が凍えるような想像だった。  信号待ちでぼんやりとしていると、パァン、と後ろからクラクションを鳴らされ、佳人は慌ててバイクを発進させた。  寂しくて、寂しくて、今すぐにでも芳崎に会いたかった。あの温かい腕で、強く強く抱き締めて欲しいと思う。
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