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 日曜日は快晴だった。抜けるような秋の空がどこまでも高く澄んでいる。  早起きをして窓を全開にし、部屋を掃除してから佳人は料理の下準備に取り掛かった。  あれから芳崎とは一度だけメールのやり取りをした。料理を振舞うにあたって最低限好き嫌いだけは確認しておきたかったからだ。  「嫌いなものはありますか」というそっけない佳人の問いに芳崎はすぐに返事をくれた。「特にないよ。愛情だけたっぷり入れてくれ」という一見ザワッと鳥肌が立つような文面でも、あの爽やかで逞しい男の顔を思い浮かべると、妙に似合ってしまうと考えるのはどうなのだろう。  彼はああ見えて意外と軽い男なのかもしれない。少なくともあの見栄えの良さと世話好きな様子からして、恋愛の相手に困ることはないのだろう。  そう考えるとチリ、と胸のどこかが引きつるような感覚を覚えた。  揚げ物、焼き物の仕上げを残してほぼ準備が整った頃、ふと時計を見ると約束の午後一時まであと僅かとなっていた。  改めて部屋の中を見回す。殺風景だが綺麗に片付いているのを確認して小さく息をつく。ここに誰かを入れるのは初めてだった。離縁した養父母たちはもちろん、義弟の誠でさえ玄関から先へ入れたことはない。  それなのにまだほとんど素性も知れない、自分より幾つも年上の男を招き入れる気になったのは何故なのだろう。  そんなのは怖いだけのはずなのに。  何を話したらいいのかも、どんな顔をすればいいのかも判らない。  そう考えると佳人は今更ながらに激しく緊張してきた。  もしかしたら自分はとんでもなく常識外れのことをしているのではないだろうか。  芳崎はどう思っているのだろう。楽しみだとは言ってくれたけれど、本当は呆れているのではないだろうか。  
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