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十二月に入って二週目の日曜日、芳崎が珍しく車で佳人のアパートまで迎えに来て、初めて二人でドライブに出かけることになった。
街中を歩くときは人目が気になりいつもどこか緊張していたのだが、二人だけの空間だと気を張らなくていい分、ほっと息をつける。
ただし、それは人目を気にしないでいられるというだけの話で、芳崎と狭い空間に二人きりでいるのは別の意味で緊張した。
ゆったりとした黒のステーションワゴンは、スマートで落ち着きのある芳崎のイメージにとてもよく似合っている。
丁寧な運転は危なげなく、やむなく急停車をした時には、咄嗟に左手を伸ばし、前に傾ぐ佳人の身体を庇ってくれたりもした。
(こういうの、女の子はクラッとくるんだろうな……)
らしくないことを考えて、一人顔を赤らめる。先日、廣瀬との件で佳人を先に帰らせてしまったことを気にしているのか、芳崎はいつにもまして佳人を気遣ってくれた。優しすぎて、いっそ怖くなるくらいに。
どこか行く当てがあるという訳ではなかった。漠然と鎌倉方面へと車を走らせる。
好天に恵まれ、さほど寒くもなく、いいドライブ日和だった。
「佳人、後ろにお茶があるから欲しかったら飲めよ」
「あ、うん。芳崎さんは」
「俺にもくれるか」
佳人はコンビニの袋から少しぬるくなったお茶のペットボトルを取り出し、フタを開けて芳崎に渡した。
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