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「……訳わかんね」
「どうしましたー? 先輩。変な顔して」
「……おう。袂、お前終わったんか」
「とっくにゲラチェックして編集長にも伺いしましたし……帰るだけですよ」
「相変わらず仕事が早いこって」
「先輩が無計画なだけでしょう。分刻みのスケジュールをよく放置出来ますよ」
「うっせー」
「……で? 今度は何見てんですか」
「『少女Mの事件』だ」
まるで小説のようなタイトルのこの事件は、実際には「××廃村三十人惨殺事件」と呼ばれる。一人の令嬢が廃村に招いた三十人を殺害し逮捕起訴。精神鑑定や十七歳と言う年齢による温情から医療刑務所に送致された。
廃れた集落で起きた大量殺人に、世間は躍った。
「……“大量猟奇殺人を犯した麗しき令嬢”ってよ……」
「有名なゲームも在りましたよね、そんな感じの。まぁ、人間は罪深い美男美女に心酔する嫌いが在りますからね。仕方のないことでは」
「お前ねー……。しかしわかんねぇよな」
「何がです?」
「裕福なお嬢がこんな大掛かりな殺人やらかす動機っつーのがよ」
「『解けてはならない謎々』」
「は?」
「知りません? 絶対解けてはいけない、解けたらヤバい謎掛けが在るんです。異常心理者しか解けないらしいですよ」
「へぇー……」
「ま、それも結構小説だの何だのに出てポピュラーになりましたけどね」
「お前本当によく知ってるね、マジで」
「一応心理学科専攻でした」
「へぇー……」
「うわ、やる気ない」
「じゃあよ、」
「はい?」
「『少女M』は何でこんなことしたかわかるか?」
少女M。
その動機は未だ伏せられたまま。
「……やっぱ良ーや」
「は?」
「わかんねぇほうがしあわせならそれで良い」
「……昏木さんにも言ってあげれば良いのに」
「無理だろ。……もう言い飽きたよ……」
「……」
「しっかし金在るよなー。三十人全員交通費支給だとよ。すげぇな」
「被害者全員の前科前歴も調べていたら相当手間隙と額が掛かってますね」
「殺人、強盗、強姦……そんな前科ばっかだな、被害者は」
「でも“正義の味方になりたかった訳じゃない”……でしょう?」
「はっ……今年の流行語大賞かよ」
「犯罪ですからねぇ……どうでしょう」
「だな。仕事すっかなぁ」
「今日も徹夜になりそうですね」
「手伝えよ」
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