お茶を焙じる香り

1/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

お茶を焙じる香り

 南海電鉄の岸和田駅から伸びるアーケード付きの商店街を歩いていた私は、お茶屋さんの前で立ち止まった。「お茶を焙じる香りや……」この香りは、客を引き留める為の機械から出ているのにすぎない。しかし、このお茶を焙じる香りが、私の亡くなった祖母を思い出させた。  明治の最後の年に産まれた祖母は、幼い頃に父親を亡くした。未亡人になった三国一の美人だったと聞かされている曾祖母は、祖母を実家に預けて再婚した。その再婚相手との間に産まれたのが私の父だ。  なら、祖母ではなく伯母になるのだが、少しややこしい話になる。私の曾祖母は美人だったが、夫運は悪かった。父を産んだ直後に、またもや夫に先立たれたのだ。そして、そこには前妻の産んだ跡取り息子がいた。帝国憲法では家長の権力は絶大だ。産まれたばかりの赤ん坊を守ろうと、曾祖母は実家に置き去りにしていた娘と跡取りを結婚させる。そして、赤ん坊を養子にさせ、安心して天国へと旅立った。  祖母も結婚運が悪い。この跡取り息子も早く亡くなり、未亡人になった。だから、伯母は私にとって戸籍上は祖母なのだ。父とは親子ほども年が離れているので、祖母だと幼い頃は信じていた。     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!