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「さっそく屋敷に戻り、殿様に進言いたそう。六角氏と提携し、援軍を要請しようと!」
「い、いや待て。だが木下。六角氏といえば宇多源氏の流れを汲む名家だぞ。それが、はっきり言って出来星大名の、しかも今川家に負けたばかりの織田家と、同盟なんかするとは思えんぜ?」
滝川さんが、焦ったように言う。
だが藤吉郎さんは、笑い飛ばした。
「滝川どのもそう思われるか、それならばちょうどいい!」
「ちょ、ちょうどいいだと?」
「おうさ。滝川どのがそう思うということは、敵の今川治部も、織田と六角の同盟なぞは夢にも思うておらんということじゃからの!」
「…………」
藤吉郎さんの快活な笑い声に、滝川さんは呆然とするばかりだ。
俺も、しばし唖然としたが――だがすぐに笑いが浮かんできた。
これだ。この実現不可能な案を実行に移していくことこそ、豊臣秀吉の真骨頂。
俺はちらりと、伊与を見た。
大きな瞳を、ますます見開かせている彼女に向けて、俺は片目をつぶる。
な、こういうひとなんだよ、藤吉郎さんは。
これだから、のちに天下人にまで出世するんだ……!
「よっしゃ、いくぞ、弥五郎。六角との同盟じゃ、まずは殿様を説得するぞ!」
「合点!」
俺と藤吉郎さんは、揃って信長の眠る屋敷へと疾走を始めた。
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