第一話 ある中年の孤独死

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 そのときだった。にわかに、パラパラパラパラ、と妙な音があたりに響きはじめたのだ。 「雨……?」  天井を見上げる。それは確かに雨のようだった。  雨はすぐに勢いを増して、家屋の屋根瓦を叩きだす。  バラバラバラバラ、バラバラバラバラ……!  かと思うと、光が目の前に広がっていく。  雷……!?  何度か、まばたきをする。  その瞬間、ゴロゴロゴロ、と轟音が響く。  まぎれもない雷鳴。俺は思わず息を呑み――  その瞬間だった。  いかずちが、一戸建てを、そして俺の肉体を貫いた。  俺はいま、死んだ。  不思議なことに、それが理解できた。  顔がゆがんだ。涙も出なかった。  人生の結末なんて、案外こんなもんだよな……。  だけど絶命の瞬間にさえ、薄れゆく意識の中で思ったんだ。  ――俺だって。  それが末期の思考だった。
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