4664人が本棚に入れています
本棚に追加
/1321ページ
「……蜂楽屋ほうらくやカンナ。それがあたしの名前」
少女――カンナは、涙をぬぐいながら名乗った。
「あたし、あたしはね」
小声で、ゆっくりと語り始める。
「あたしはね、おじいちゃんがイングランド北部出身の商人だったんよ」
「イングランド……」
イギリスを構成している国のひとつだな。
「うん。……アンタは知らんと思うけど、イングランドっていうのは――」
「いや、知ってるぜ。ヨーロッパのグレートブリテン島にある国だろ」
「……あ、アンタよう知っとうね。いままで会うた日本人は、誰もイングランドのことなんか知らんかったとに。ヨーロッパに詳しいん?」
「いや……まあ、いろいろあってな」
まさか未来からの転生者とは言えずに口ごもる。
「で? 君はそのイングランド人の血を引いているのか」
「……うん」
カンナは、語った。
それによると。
昔、あるイングランド人が東南アジアにやってきて、現地の女の子との間に娘を作った。
その後、イングランド人はアジアを去ったが、娘は現地に残った。
そしてその娘は、同じく東南アジアに進出した博多商人の男、蜂楽屋ほうらくやと恋に落ちて結婚した。
そうして、いまから12年前に産まれた子供が――
「……カンナってわけか」
最初のコメントを投稿しよう!