第二十三話 蜂楽屋カンナ

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 言ってから、初対面の子を呼び捨てはマズかったなと思ったが、彼女は気にしたふうでもなく、小さくこくりとうなずいた。  なるほどな、事情はだいたい分かった。  しかし、この時期のアジアにイングランド人とは珍しいな。  ポルトガル人が日本に鉄砲を伝えたり、あるいはスペイン人のザビエルがキリスト教を日本に伝来させたりしていることからも分かる通り、16世紀のアジアを駆け回っているのはなんといってもポルトガルとスペインだ。イギリスがアジア諸国に大々的に登場するのはもう少しあとの時代である。  といっても、まったくいなかったわけじゃないだろうけど……。  現に、イングランド人の血を引くカンナが目の前にいるしな。 「お母さんは、あたしを産んですぐに病気で死んじゃったけど、お父さんはあたしを可愛がってくれて……。商売で日本中を駆け巡る旅に、あたしを連れていってくれた。楽しかった。……やけどお父さんは、この尾張に来たとき、急に病気になって――」 「――死んだのか」 「…………うん」  カンナは、再び小さく首肯した。 「あたし、ひとりぼっちになっちゃって。だけど、なんとか生きていかなと思ったけんさ。お父さんが遺したお金や道具を使って、商売で食っていこうと思ったんよ」 「し、商売で?」 「そうよ!」     
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