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「変な病気やろ? いまだになんの病気やったかよく分からん。そんでね、そのうち誰かが『これはうつる病気じゃないか』って言い出して。――そこからは、もうだめやった。部下のひとたちは、ひとり、またひとりってどんどんいなくなっていって。……しまいには一番信用しとったひとまで、蜂楽屋の船を奪って逃げちゃったし」
「逃げた? 船まで奪って?」
それはまた派手な――
と思って、俺はふと思い出した。
こういう逸話があるのだ。
ある廻船商人かいせんしょうにん(船で各地を回る商人)が旅の途中、尾張で病にかかった。
その商人に仕えていた奉公人たちは、最初こそ商人の面倒を見た。
しかし、やがてひとりの奉公人が欲にかられた。
そして彼は他の奉公人や、金で雇った船乗りと示し合わせて、商人の船を分捕ってどこかへと逃げてしまったのだ。
残された商人は、奉公人への怒りのあまり、病状をさらに悪化させ、最後はついに死んでしまった。
奉公人たちは、九州のほうまで逃れたが、その後の行方は知れないという。
この話は、戦国時代のいつごろの話か時期が不明瞭で、史実かどうかも定かでないと言われている。
だが、カンナの話と奇妙な整合性がある。
もしかして、この逸話の商人はカンナの父親なんだろうか?
……分からない。
分からないといえば、カンナのお父さんの病気もよく分からない。
全身のブツブツにお腹の膨らみ? 想像もつかない。
――ただ、ひとつだけ言えることがある。
彼女はきっと、大変だったということだ。
「カンナ、大変だったな」
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