第二十四話 津島到着、そして

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「変な病気やろ? いまだになんの病気やったかよく分からん。そんでね、そのうち誰かが『これはうつる病気じゃないか』って言い出して。――そこからは、もうだめやった。部下のひとたちは、ひとり、またひとりってどんどんいなくなっていって。……しまいには一番信用しとったひとまで、蜂楽屋の船を奪って逃げちゃったし」 「逃げた? 船まで奪って?」  それはまた派手な――  と思って、俺はふと思い出した。  こういう逸話があるのだ。  ある廻船商人かいせんしょうにん(船で各地を回る商人)が旅の途中、尾張で病にかかった。  その商人に仕えていた奉公人たちは、最初こそ商人の面倒を見た。  しかし、やがてひとりの奉公人が欲にかられた。  そして彼は他の奉公人や、金で雇った船乗りと示し合わせて、商人の船を分捕ってどこかへと逃げてしまったのだ。  残された商人は、奉公人への怒りのあまり、病状をさらに悪化させ、最後はついに死んでしまった。  奉公人たちは、九州のほうまで逃れたが、その後の行方は知れないという。  この話は、戦国時代のいつごろの話か時期が不明瞭で、史実かどうかも定かでないと言われている。  だが、カンナの話と奇妙な整合性がある。  もしかして、この逸話の商人はカンナの父親なんだろうか?  ……分からない。  分からないといえば、カンナのお父さんの病気もよく分からない。  全身のブツブツにお腹の膨らみ? 想像もつかない。  ――ただ、ひとつだけ言えることがある。  彼女はきっと、大変だったということだ。 「カンナ、大変だったな」     
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