第二十五話 尾州錯乱(と、その余波)

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『尾張の虎』と称されるほどの人物で、この人が出てきて、乱世の尾張国はまとまり始める。  しかし。  織田信秀はいまから数年前。  すなわち1540年代後半から、いくさでの敗北が増え、さらに病気がちになった。  そのため、織田弾正忠家は尾張における求心力と統率力を失ってしまう。  尾張国はリーダーを失った。そうなると、誰も彼もがおのれの欲を満たそうと行動を始める。  武家勢力、寺社勢力、商人、野盗。ありとあらゆる勢力が、少しでも金や土地を手に入れようと、尾張国内を暴れ回り始めた。その有様は、「尾州錯乱(『定光寺年代記』)」と称されたほどだ。  日本全国が乱れまくっている戦国時代。  だがその中でも、この時期の尾張は特に荒れているのだ。  いまにして思えばあのシガル衆も、尾張がそういう状況だから好き勝手暴れているんだろう。  もし織田信秀が健在なら。  尾張国内がもう少しシャキッとしていれば。  シガル衆のような野盗集団は暴れ回らず。  海老原村にも若者が、もっといたに違いない。 「海老原村に若い人がいない理由は分かったよ。そういうことなら、困ってるだろうな」  俺はうなずきながら言った。  それからカンナと視線を交差させ、お互いにこくりとうなずくと、     
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