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俺とカンナは、その場を立ち去ろうとする。
そのとき「おい」と滝川一益が言った。
「布を忘れてるぞ」
「え」
振り返ると、確かに彼の足下に布が落ちている。
カンナがまとっていた布だ。
「…………忘れるんじゃねえよ」
滝川一益は、ぶっきらぼうな口調で。
しかし何気ないしぐさで、落ちている布を拾おうとした。
すると。――彼は突然、目の色を変えた。
「こ、こいつは……?」
どうやら、なにかを見つけたらしい。な、なんだ?
彼は、カンナの布と一緒にその『なにか』を拾い上げて、見つめている。
滝川一益が持っているそれは――
「早合……」
もちろん俺のものだ。
そうか。さっき、滝川一益に迫られて、革袋に思わず手を突っ込んだときだ。
ひとつ、袋からこぼれ落ちてしまっていたらしい。
滝川一益は、早合を見て、驚いた表情である。
かと思うと、指先で触り、クンクンと匂いをかぎ、さらに眉間にしわを寄せる。
「これは、ハヤゴウ、っていうのか。お前、これをどこで手に入れた?」
「手に入れたというか。……作ったんです」
「作った!? お前が!? 本当か!?」
「はい」
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