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「だが冬の時期は繁殖期でしてな。メスを求めて興奮するオスイノシシがたまに出てきます。先ほどのイノシシも、そのたぐいでしょう」
海老原村のあぜ道を歩き回る、俺、カンナ、滝川さん、あかりちゃん、八兵衛翁。
八兵衛翁は、俺たちに、というより滝川さんに向けてイノシシのことを解説していた(なお馬は、村の入口に置いてきた)
「それであのイノシシは、急に襲ってきたわけだな」
「そうですじゃ。……もっとも、いきなり出くわしたのは運が悪かったですな」
「まったくだ。……イノシシはこのあたりに逃げたな?」
滝川さんがあたりを見回す。
先ほど、イノシシが逃げこんだ森の入口に、俺たちは到着していた。
俺と滝川さんは、顔を見合わせて、こくりとうなずいた。
「それじゃ、あとはオレと山田でイノシシを退治しよう。八兵衛殿とあかりちゃんたちは家の中にでも入ってな」
「あ、はい」
「それじゃ滝川さま、お願いしますじゃ」
「弥五郎。……大丈夫?」
「大丈夫だよ。カンナこそ大丈夫か?」
あかりちゃんとも八兵衛翁ともほとんど話していないカンナ。
俺と離れて大丈夫かな、と心配だったが、
「あたしは大丈夫やけん。……じゃあ、気をつけてね」
カンナは薄い笑みを浮かべ、あかりちゃんたちと去っていった。
あとには俺と、滝川さんだけが残される。
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