第二十九話 加工貿易

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 先ほどから、妙に輝いたまなざしで早合を見ているからだ。  そのまなざしの光は、分かる人にしか分からない。  剣次叔父さんの目つきとちょっと似ている。  そう、凝り性の人が自分の好きなものについて熱中するとき独特の(まなこ)なんだ。  滝川さんも鉄砲には詳しいようだが、佐々成政もそうとうに、鉄砲が好きなようだ。  早合を指でつまんで、食い入るように眺めている。 「佐々さん、早合がそんなに面白いですか」 「興味深い」 「そ、そうですか」 「(こくり)」 「…………」 「これを見るために、ここまで来た」  と、佐々さんが言う。  その瞬間、俺はぴんときた。 「佐々さん」 「…………?」 「この早合、欲しいですか?」 「…………!」  佐々さんは、目をこれまでにないほど見開いた。  そして、 「(こくこくこくこく!)」  激しく、うなずいた。  なお、無表情のままである。 「そんなに欲しいですか?」 「(こくこくこくこく!)」 「お金を出しても?」 「(こくこくこくこく!)」 「たくさん欲しいですか?」 「(こくこくこくこくこくこくこくこく!)」  ……決まりだ。  俺は、ニッと笑った。     
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