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「お前さんはふたりに甘すぎますよ。だいたい男女で相撲なんてやっているのもはしたない。お侍なら元服も近いのに。ああもう、父親がこんなことじゃ……!」
「まあまあ。……しかし弥五郎たちも、あまり遊び回るんじゃないぞ。ふたりの姿が見えないもんだから、お杉はついさっきまで、なにかあったんじゃないかって顔を蒼くして――」
「お、お前さんっ。お説教の途中にそんな話を挟まなくてもいいじゃありませんか」
「義母様。……私たちのこと、心配してくれていたのか?」
「当たり前でしょうが。反省しなさいっ」
「は、はい」
母ちゃんに怒鳴られ、伊与はしゅんとなる。
怒る母に、なだめる父。小さくなる幼馴染。
俺はこの光景を眺めながら、なんだか暖かなものを感じていた。
こういうの、久しぶりな気がするけど。
……なんかいいな。ほっとする。
仕事に明け暮れ、友達付き合いもほとんどなく、両親を数年前に亡くし――
しまいには叔父の孤独死を目の当たりにしてしまった俺は、心からそう思ったんだ。
そうだ。自分に必要だったのは、まさにこういう、ありふれた団欒だったんだ。
俺は、この時代で自分がやるべきことを決めた。
出世はいらない。歴史を変えようとも思わない。
ずっと、家族と一緒に過ごしたい。
せっかく転生はしたけれど。
……それでもいいじゃないか。
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