4728人が本棚に入れています
本棚に追加
第三十一話 相国寺余波
「滝川久助。津島にいるという噂は、本当だったか」
「た、滝川さん。どちら様ですか、このひとは」
「……和田伝右衛門。近江国(滋賀県)甲賀の豪族だ」
「お初にお目にかかる。自分は和田伝右衛門惟政わだでんえもんこれまさと申す」
和田伝右衛門惟政は、馬鹿丁寧にお辞儀をした。
どうも、実直な性格らしい。
俺とカンナも慌てて頭を下げるが――
しかし俺は内心、驚いていた。
和田惟政だって?
この時期は確かに、まだ近江国甲賀の豪族だ。
だけど、のちに室町幕府と繋がりができて、幕府の奉行衆になる人じゃないか!?
そんな人が、なんで滝川さんと知り合いで、しかもこの津島にいるんだ?
和田惟政は、俺とカンナへのあいさつもそこそこに、滝川さんに食らいつく。
「久助。お前ともあろう者が、なぜこんなところで遊んでいる」
「……なんだっていいじゃねえかよ。それよりお前こそ、どうして津島なんぞに来た」
「久助がいるという噂を聞いて、やってきたのだ」
「オレがいると聞いて……? オレが目的なのか?」
「そうだ。久助、お前の助けが要る。いま、甲賀の里は危機なのだ」
「なに?」
「敵に囲まれ、まさに敗亡しようとしている」
最初のコメントを投稿しよう!