第三十一話 相国寺余波

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 そして、と和田惟政は言った。 「甲賀の里は、合議の結果、あくまでも公方様に忠誠を尽くすべきだと決めたのだが――その結果、三好派の勢力から狙われつつあるのだ」 「…………」 「三好家は、強い。甲賀の里はいま、里にひとりでも多くの戦力が欲しいのだ。……久助、お前が来てくれたら百人力、いや千人力だ。頼む、甲賀に戻ってくれ」 「…………」  滝川さんは、しばし押し黙っていたが。  やがて苦虫を?み潰したような顔をして、 「いまのオレはただの浪人だ。なんの力もねえよ」 「久助!」 「戦力を増強したいなら、こっちの山田弥五郎に頼んでみな」 「え!?」  突然、話をふられて、俺は仰天した。  和田さんは、ちらり。俺のほうを見る。 「山田弥五郎は、見ての通りまだ若い。だが、火薬や鉄砲の扱いに長けている。はっきり言って、その能力はオレより上だ。だから、こいつに頼んでなにか新しい鉄砲だか火器でも作ってもらうんだな。そのほうが、オレが戻るよりよほど戦力になるさ」  それだけ言うと、滝川さんはきびすを返し、 「伝右衛門。オレなんかに頼るのは、もうやめろ。昔の滝川久助は死んだ」  それだけ言うと、立ち去ってしまった。  あとには俺とカンナ、和田惟政さんが残される。     
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