第三十一話 相国寺余波

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「だが久助は、ある日突然、甲賀の里を出ていった。――『世話になっておきながら申し訳ない。だが自分はもはや、忍びにはなれない。田舎に戻って田畑を耕したい』などと言い出してな。父も自分も驚き、止めた。久助ほど忍びの才能がある者もいなかったからな。……だがやつは聞かず、甲賀の里を出ていった」 「ねえねえ、あたし忍びのことは詳しくなかけど、里を出て、処罰とかはされんと?」 「伊賀の里は厳しいが、我ら甲賀はそうでもない。来るもの拒まず、去る者追わずの精神でやっている。もちろん勝手に出ていった者は追われるが、正式な手続きを踏んで脱退した者まで追うことはない」  和田さんは説明した。……そういうものか。  まあ、忍者のオキテ云々って後世の創作だって言われているしな。  いわゆる上忍、中忍、下忍みたいなシノビの階層も実際にはなかったらしいし。 「とにかくそうして、久助は甲賀を出ていった。あれほどの男がなぜ忍びをやめてしまったのか、それは分からんが……とにかく惜しいことだ」 「「…………」」 「――ところで」  和田さんは顔を上げた。 「久助が言っていたが、山田うじ。火薬の扱いに長けているとは、マコトか。マコトならば、久助が言ったように、ぜひ甲賀のために火器を作ってほしいのだが」 「え。……ああ、ええと……まあ、それなりに……」 「それなりでは困る。……見たところ、貴殿はまだ年少だ。申し訳ないが、とても火薬を扱えるとは思えんが――」     
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