第三十二話 もののふ一生の業

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 商家の前で、俺は思わず叫んでいた。  前回、硝石を買ったお店におもむくと、なんと品切れしていたのだ。 「ひ、ひ、ひ。ごめんねえ。やっぱりあれは貴重品だからねえ、なかなか、ねえ。ひ、ひ、ひ」  ……参ったな。  これじゃ火薬が作れないぞ。  装備している革袋の中に、わずかな火薬はあるんだけど、これだけじゃ焙烙玉は作れないし、うーん。  ふつうに火薬を買うか? でも、あっちだと高いんだよなあ。  悩みながら歩いていると――どんっ。 「おっと!」「わっ、すみません」  誰かにぶつかった。  反射的に謝りつつ、顔を上げると、 「山田!」「滝川さん!」  なんと相手は、立ち去ったはずの滝川さんだったのだ。  それから俺は、和田さんから引き受けた仕事のことを話した。 「そうか、伝右衛門のための焙烙玉か。で、硝石がない、と。……なるほどなあ」  滝川さんは、何度もうなずき、 「それなら、オレが持っている火薬を少し分けてやろうか? 大した量じゃないが、いまお前が持っている分と合わせりゃ、焙烙玉1発分の量になるだろ」 「え? い、いいんですか!?」 「ああ。しばらく鉄砲を使うこともなさそうだしな」 「あ、ありがとうございます。おいくらですか?」 「いらねえよ、金なんて」     
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