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「最近、尾張の山々を荒らしまわっている山賊集団だよ。『死など軽い』という言葉から転じて、そういう名前になったともいうし、足軽崩れが集まったことから、アシガルがなまってシガルになったとも言われている。……なんにせよ、タチの悪い山賊だってうわさだよ」
「そんな……。――義母様! 私も戦いにいく。義父様と村のみんなを助けにいく!」
伊与が悲痛に叫んだ。侍志望の彼女らしいセリフだったが、しかし小さな肩は震えていた。
そんな幼馴染の黒髪を、母はそっと撫でてやり、
「馬鹿なことを言うもんじゃないよ。あんたが出ていっても足手まといさ」
「石を投げるくらいならできる! だから、だから――」
「大丈夫。信じるんだよ、義父様を。……ほら、見なさい!」
母ちゃんが指差した先では、父ちゃんが火縄銃を再び構えており――
どおん、と銃口が再び火を噴いた。
弾は、シガル衆の中心にいた大男に命中したらしい。
男が、どっと倒れ込む。
「やった!」
俺は思わず叫んでいた。
他の村人たちも、わっと声をあげた。いいぞ、このままシガル衆をぶっ倒せ!
大樹村の勝ちだ――俺はそう思った。他のみんなも、そう考えたことだろう。
だが、そのときだった。
「……雨が……」
と、小屋の中の誰かが言った通り。
ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。空もいつの間にか曇っている。
……マズい。火縄銃は、雨の中じゃ使えないぞ。
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