第十話 楽市の町・加納

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「ここに薪が10束ある。炭のついでに持ってきたものだが、加納市なら売れるだろう。……しかしただ売るだけじゃ、これはせいぜい20文にしかならない。だが、これをもっと高く売ることもできるはずだ」 「えっ」 「そうだな。――この町の安宿がひとり1泊30文で、4人だと120文だから……120文で売ってみろ。20文でしか売れないこの薪を、120文で売ってみるんだ」  そ、そんな無茶な!?  口をあんぐりと開ける俺だったが、父ちゃんはなお続ける。  ふところから、紙と筆、さらに墨を取り出すと、 「弥五郎、ひとつ助言をしよう。商売に大事なのは、情報の整理と在庫管理だ。――これは父ちゃんがいつもやっていることなんだが、自分の現状を、常に紙に書き込んでおくんだ。いま達成するべき目標と、所有しているお金、さらに商品の種類と数をな。そうすれば、次にやるべきこともおのずと見えてくる。……さ、やってみろ」 《弥五郎 銭 0文》 <目標 120文を稼ぐ>  商品 ・薪 10 「こうかな、父ちゃん」 「そんなもんだな」 「本当にやらせる気ですか……」  母ちゃんはまだ不満そうだが、父ちゃんは意に介さず、 「さ、弥五郎、いけ。商売をやってみろ。母ちゃんをびっくりさせてやれ」 「義父様、私も弥五郎についていっていいか? 町中をもっと見てみたい」 「ん? ああ、伊与ならいいぞ。なにせ未来の恋女房だからな、わはは」     
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