第一話 ある中年の孤独死

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 若いころは会社員をやっていたけど、上司とソリが合わずいじめられ、それで会社を辞めて店を開いたと言っていた叔父さん……。  ――毎月毎月、食っていくのがやっとだよ。  ――そりゃ家は一戸建てだけどさ、築何十年にもなる超ボロ家を、格安で買っただけだしな。  ――この生活じゃ結婚もできないよ。まあしたくても、肝心の相手がいないんだけどな。  そんなセリフを、笑いもせずに言っていた。  社会から踏みにじられ、誰からも愛されず、ひとりぼっちで死んでいく……。  他人事とは思えなかった。  俺の末路も、こんな感じかもしれない。  だいたい不器用さは血筋なんだ。死んだ両親も、あまり人付き合いが得意なほうじゃなかったし。  俺だって、そうだ。高校を卒業してから勤めた会社はブラック企業の営業職で、朝から晩までコキ使われ、そのくせ給料は激安のまま。  心身共に疲れ果てた俺は、数か月前、ついに会社を辞めたのだった。  いまは失業手当で食っているが、これもいずれは切れてしまう。  お先真っ暗とは、このことだ。未来になんの希望ももてない。  ……いつからこうなったんだろうな。  小さいころ、この家に遊びに来ていたときは、もっと人生が楽しかったのに。  ――さらに家の奥まで進むと、ドアがあった。     
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