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東の空がわずかに白ばみはじめたころ、殺戮者のひとりが、
「無明(むみょう)様」
と、シガル衆の中でもひときわ大きな男に声をかけた。
乱髪を束ね、肌が浅黒く焼けている人物だ。
無明と呼ばれたその男が、どうやら首領らしい。
「もはや、殺すやつも分捕るものもありませんぜ」
「そうか、そろそろ、引き上げ時か」
無明と呼ばれた大男は、ニヤリと邪悪に微笑んだ。
「この村のやつらも、ずいぶんと頑張ったがな」
「無明様の采配のおかげで、今回は我らの勝利ですぜ」
「あの妙な弾を撃つ小僧もいなかったしな」
げらげらげら、とシガル衆が笑う……。
無明と呼ばれている男は、前回はいなかった。
そうか、今回はシガル衆の頭目が直に采配を振ったってわけか。
村のみんなも前のとき同様、必死に戦ったんだろう。
だがリーダーがみずから来ては、勝ち目はなかったに違いない。
……無明。
その顔、その声、その名前、その風体。
俺はおそらく、やつのすべてを生涯忘れないだろう。
「それでは帰るぞ、お前たち。……今夜は収穫だった!」
「「「おおーっ!」」」
シガル衆は勝ちどきをあげながら、大樹村を去っていった。
俺と藤吉郎さんは、ふたりでなお、草むらの中に隠れ続けた。
焼け跡となった大樹村。
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