4655人が本棚に入れています
本棚に追加
/1318ページ
第三話 謎の声
俺は、乱世に生まれ変わってしまったようだ。
ってことは。……俺、未来を知ってるよな……?
そう、俺は歴史を知っている。
叔父さんから武具の作り方について習ったとき、その武具がどうしてこの世に登場したのか、その背景も一緒に教えてもらったもんだから、歴史についてはそれなりに詳しいつもりである。
語り出すとキリがないが、大ざっぱにいってしまえば、戦国時代は最終的に、徳川家康が江戸幕府を開くことで終了する。これは子供でも知っている流れだ。
だからものすごく単純に考えれば、徳川家康の配下になれば、俺は出世できるかもしれない――
って、そう簡単にいくかよ!
内心、ひとりでツッコんだ。歴史の知識があるだけで立身できたら苦労はないぜ。
そもそも俺は出世がしたいのか?
……どうだろう。うーん。
「弥五郎。さっきからなにをぼーっとしているんだ?」
伊与が、話しかけてきた。
「やはり、頭でも打ったのではないか? たんこぶは……うん、こぶはできていないようだ……」
「あ、いや」
心配してくれる幼馴染に向けて、俺は――弥五郎こと俊明は、ぎこちなく笑う。
「ごめん。本当になんてことないんだ」
「……ふむ? そうか。それならばいいが」
伊与はそこで、やっと柔和な表情を見せた。
「とにかく悪かった。次はもう少し手加減して投げ飛ばそう」
「投げ飛ばすのは確定なの!? そりゃないよ!」
「ふふっ、それだけ元気に怒鳴り返せるのなら、本当に怪我はなさそうだな。安心したよ」
伊与は優しく目を細めた。その愛らしい笑顔を見て、俺も思わずくすっとする。
彼女が、俺の身体を案じてくれているのが嬉しかった。
「弥五郎、そろそろ夕暮れ時だ。家に帰ろう」
「うん」
俺は伊与と連れ立って歩く。……歩きながら、思う。
どうもまだ混乱している。とにかく現状をもっと把握しよう。
この戦国時代でどう生きるか、決めるのはそれからだ。
最初のコメントを投稿しよう!