第三話 謎の声

1/4
4655人が本棚に入れています
本棚に追加
/1318ページ

第三話 謎の声

 俺は、乱世に生まれ変わってしまったようだ。  ってことは。……俺、未来を知ってるよな……?  そう、俺は歴史を知っている。  叔父さんから武具の作り方について習ったとき、その武具がどうしてこの世に登場したのか、その背景も一緒に教えてもらったもんだから、歴史についてはそれなりに詳しいつもりである。  語り出すとキリがないが、大ざっぱにいってしまえば、戦国時代は最終的に、徳川家康が江戸幕府を開くことで終了する。これは子供でも知っている流れだ。  だからものすごく単純に考えれば、徳川家康の配下になれば、俺は出世できるかもしれない――  って、そう簡単にいくかよ!  内心、ひとりでツッコんだ。歴史の知識があるだけで立身できたら苦労はないぜ。  そもそも俺は出世がしたいのか?  ……どうだろう。うーん。 「弥五郎。さっきからなにをぼーっとしているんだ?」  伊与が、話しかけてきた。 「やはり、頭でも打ったのではないか? たんこぶは……うん、こぶはできていないようだ……」 「あ、いや」  心配してくれる幼馴染に向けて、俺は――弥五郎こと俊明は、ぎこちなく笑う。 「ごめん。本当になんてことないんだ」 「……ふむ? そうか。それならばいいが」  伊与はそこで、やっと柔和な表情を見せた。 「とにかく悪かった。次はもう少し手加減して投げ飛ばそう」 「投げ飛ばすのは確定なの!? そりゃないよ!」 「ふふっ、それだけ元気に怒鳴り返せるのなら、本当に怪我はなさそうだな。安心したよ」  伊与は優しく目を細めた。その愛らしい笑顔を見て、俺も思わずくすっとする。  彼女が、俺の身体を案じてくれているのが嬉しかった。 「弥五郎、そろそろ夕暮れ時だ。家に帰ろう」 「うん」  俺は伊与と連れ立って歩く。……歩きながら、思う。  どうもまだ混乱している。とにかく現状をもっと把握しよう。  この戦国時代でどう生きるか、決めるのはそれからだ。
/1318ページ

最初のコメントを投稿しよう!