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第五話 シガル衆
――恐怖は前振りもなくやってくる。
それは、俺が転生してから数日後。
薄暗くなった夕方のことだった。
ふいに家の外が騒がしくなり、そしていきなり、村人たちの怒号が飛び交いはじめたのだ。
「野盗じゃア、野盗が山から攻めてきたぞぉ! 村衆よォ、出合え、出合え!!」
「や、野盗っ……!?」
俺は思わず声をあげた。
「この村にも来たか」
父ちゃんが、しかめっ面をする。
「北のほうの村が、襲われたと聞いていたが」
「お前さん、落ち着いている場合ですか。……どうされるのです?」
「知れたことだ、戦う。殿様を呼んでいる余裕もなさそうだからな」
そうか、この村だって、どこかの侍が所有しているはずなんだよな。
そのために年貢を納めているわけで。
もっとも、時間的な理由で援軍は期待できないみたいだが。
自分たちの村は、自分たちで守るしかないってことか。
「お杉は、弥五郎と伊与を連れて高台のほうへ避難していろ。儂は村のみんなと戦いにいく」
言いながら父ちゃんは、家の奥から黒光りする棒切れを持ち出してきて――
って、これは……火縄銃じゃないか!
この時代では高級品のはずだが、父ちゃんは、こんなものを持っていたのか!?
「みんな、早く逃げろ。ぼやぼやするな!」
父ちゃんが短く叫ぶ。母ちゃんは慌ててうなずいた。
俺と伊与は、母ちゃんの手を握り、家から飛び出して避難する。
……これが戦国か。
俺は、全身を軽く震わせた。
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