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第十九話 大樹村の悲劇
殺戮が、展開されていた。
阿鼻叫喚。地獄絵図。狂瀾怒濤。
――とにかく眼前の光景は凄絶すぎた。
荒れ狂う嵐の如くである。
シガル衆の連中が、次から次へと血刀をふるい、村人たちを殺害し、いたぶり回し、火をつけてゆき、金品や食料を強奪している。
俺は目の前の現実が信じられず、思わずくちびるを震わせ、もう少し経ってから歯を鳴らした。
弥五郎として12年余りを暮らした、大樹村が燃えている。生まれ故郷が滅びの危機を迎えている。
「く、くそ――」
「馬鹿、出ていくな……!」
茂みから飛び出そうとした俺を、藤吉郎さんが必死になって抑え込んだ。
「気持ちは分かる。だが、こらえよ。汝まで死ぬぞ」
「だ、だけど、このままじゃ、父ちゃんが、母ちゃんが。伊与が。……みんなが!」
「それでも、こらえよ。こらえるしかない……!」
く、くそっ。こらえるしかない? 本当にそうするしかないのかよ!?
くそ、くそ、くそ、くそおおおお……!!
怒りに震える俺を、藤吉郎さんが必死に制止する。
一晩中、夜が明けるまでそれは続いた。
すなわち。
……地獄は夜を徹して続いたのだ。
何時間が経っただろう。
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