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『シイナ村は本当に楽しいところだ。ルールは簡単。一番憎い人を連れて、真っ赤な夕焼けがある時に、壊れた信号機が奏でる『とおりゃんせ』を聞きながら、東京のどこかにあるその横断歩道を渡るのさ。
その時、絶対に相手の手を離しちゃならないよ? そして、シイナ村では一番に村人を見つけなきゃならない。戻れるのは村人を最初に見つけた一人だけだからね? 後から会ったとしても意味はないよ。そうして一晩明かしたら、帰る条件は揃うのさ。
最後に、帰る時は、やっぱり相手の手を引っ張らなきゃならない。帰った時にはきっと、憎い相手は居ないから、我慢しなきゃ。
帰ってきたらあら不思議、相手のことは誰も覚えちゃいないのさ。ほら、楽しいところだろう?』
そんな説明が書かれたネットの掲示板を見て、私はフフッと笑う。噂は本当だった。シイナ村は、確かにあった。
凛は知らないでしょう。私が、あなたを憎んでいたことなんて。まさか、彼が凛の写真を見て一目惚れするなんて思わなかった。まさか、そんな理由で私がフラれるなんて思わなかった。でも、これで大丈夫。これで、私は凛から解放される。
凛が置いていった車に乗り込んで、鞄を手渡す際に盗んだキーでエンジンをかけると、私は楽しく車を走らせる。
後には、壊れた信号機だけが寂しく、寂しく、残っていた。
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