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手早く朝食を終えると、私達は、まず老婆を探すことにする。
「私が会ったのは、あの家の前だから、きっとあの家に住んでるんじゃないかなぁ?」
そう言われて指差された家は、この村で一番古そうな家だった。壁が朽ちて、蔦が幾重にも張り巡らされ、ドアノブなどは完全に錆び付いて、どれくらい使われていないのか分からないような状態だ。
それでも、一応家の形態は保っているため、私は穂香の言葉を信じる。
コンコンコン。
「ごめんくださーいっ」
インターホンなんて文明の利器が備わっていない扉を前に、私はおそるおそる声を出す。しかし、家の中からは何の音も聞こえない。
「留守かな? ごめんくださーいっ!!」
隣で首をかしげた穂香が声を張り上げると、わずかに、家の中から音がした。
「あっ、居るみたいだね。もしかしたら、凛の声は聞こえなかったのかも?」
「うん、そうかもね」
確かに、呼び掛けた声量は全く違った。相手が老婆なら、耳が遠いことも視野に入れるべきだったのだろう。
そうして、少し待つと、錆び付いたドアノブがゆっくり回り……黒い靄が顔を覗かせた。
「ひっ!」
「あっ、おばあちゃん、昨日ぶりですー」
靄を見て短い悲鳴を上げた私は、すぐに逃げようとして、穂香のとんでもない言葉を耳にする。どう見ても黒い靄にしか見えないソレに、穂香は人間を相手にしているかのように親しげに話しかけているでないか。
「ほ、穂香?」
「はい、今日でもう帰ろうと思いまして。昨日は色々教えてくださってありがとうございます」
あまりにもあり得ない光景に、私はどうしたら良いのか分からずにジリジリと後退する。
今すぐにでも逃げ出したい。しかし、それにはどうしたって穂香を見捨てられないという事実がつきまとう。
「ほ、のか?」
「はいっ、そうです。友達です。ここまで連れてきてくれたんですよ」
うんともすんとも言わない靄に話しかけ続ける穂香。それを気味が悪いと思いながらも、穂香にはそれが老婆に見えるのだろうと気づいてしまう。
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