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東京観光がしたいと言った鈴宮穂香を車に乗せて、私、天崎凛はこの三連休をその観光に費やしていた。
東京に住んでいるといっても、中々観光地までは足を運ぶことがなかったので、これも良い経験だと思いながら、三連休の中日である今日も運転する。ただ、時間からして、今日はもう後一ヶ所くらいしか回れないだろうと乗り込んだばかりの車内の時計を見ながら判断する。
「穂香、今日は後一ヶ所回ったら終わりにしたいんだけど、どこ行く?」
「ん? うーんとね、シイナ村に行きたいっ」
あらかじめ質問を予測していたように勢い良く告げる穂香に、私は『はいはい』と言いながら頭の中でそんな場所は聞いたことがないな、とも思う。もしかしたら、私が知らないだけかもしれないが、少なくとも有名な観光名所ではなさそうだ。
「ちょっとカーナビで調べてみるね」
穂香は東京に来るのは初めてだそうだから、土地勘がない。もしも遠かったら明日に回そうと思って、カーナビに触れたところ、慌てたような穂香の声がかかる。
「あっ、凛、場所はちゃんと調べてる、というか、なんというか……」
妙に歯切れの悪い穂香。私はそれに、何だか嫌な予感がする。
「穂香、その場所、どこ?」
まさか変なところじゃないだろうなという意味を込めた視線に、穂香はすぐさま挙動不審になる。
「え、えっとね。ネットで見つけたんだけど……」
そうして穂香が話したことは、以下の通りだ。
一つ、シイナ村は、東京都○○区に存在する。
一つ、シイナ村に入るには、真っ赤な夕焼けに染まった時刻でなければならない。
一つ、シイナ村の入り口は、『とおりゃんせ』の音楽が流れている間に、壊れた信号機付きの横断歩道を渡ることで通過できる。
「ねぇ、それって、都市伝説ってやつ?」
私は、あまりにも荒唐無稽な話に、気づいたら呆れた声でそう尋ねていた。
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